~追記~
二週間ばかり後、約束?どおり、本当に登れるだけの実力が身に付いているのか、まだまだ半信半疑だったから、再びチャレンジャーとして件の峠に向かった。結果から言うと、無事登れて万々歳なのだけれど、二回連続登れたら本物だろうと胸を撫で下ろしたのだが、肉体的キツさは相変わらず、しかし精神的には相手を呑んでかかることができ、冷静に登攀を観察する余裕さえあって、色々なるほどと思うところあり。もしかしたら、こいつをやっつけたい、という奇特な人がいるやもしれぬので、技術的側面からアドバイスしてみよう。
例えば、脚はペダルに対し、上死点から下死点へと弧を描きながら、力を込めて踏み抜かれる。その後、下死点より上死点に戻っていく間、筋肉は緊張から解き放たれ、一気に弛緩し力の回復に努めよう。それを左右交互に、右脚が頑張っている時は、左脚は息抜きをし、左脚が踏ん張っている時は、右脚は力を脱く。要するに、脚を酷使しつつも休ませながら、まるで一瞬の気も抜けない芸当を強いられる、というのが、この峠攻略の肝なのだ。
まったく感覚的なもので、そこを突っ込まれても困るのだが、己の脚に耳を傾けてみれば、こんなところだろうか。すなわち100パーセントの力とは、いわゆるダンシングの全身を振り子にした我武者羅走法であるが、ほんの100メートルも続かずに力尽きてしまう。もしそれが85パーセント程度であれば、特にペース配分を考えなくても限界ギリギリのところで回し続けることができ、これが理想と言える。そして、暗峠の場合、レッドゾーン付近の90から95パーセントの出力を要求されるのだが、これを維持することは無理な相談だけれど、瞬間的な出力ならば辛うじて可能であり、だからこそペダルを重力に負けぬよう踏み込むのと同じ位、思いっきり脱力しての脚を回復させることが大事なんだと、改めて強調する次第である。
なるほど、プロの選手や熱心なアマチュアレーサーでも、心拍計やパワーメーターを使うことで、様々なデータがはじき出され、数字を足したり引いたりして、己の走りを分析しているのだが、それに通じるものがあろうか。そりゃ、ここまでなら許容範囲内、まだまだ行けるはず、或いは、これ以上はレッドゾーンに突入、すぐにも失速するぞ、その境界線が数値にて把握されていれば、便利には違いない。しかしながら、そんな科学的ギアが無くとも対処できるのは、もっとシンプルに、体の調子は体に聞けばいいだけの話であって、息遣いの激しさにより、力の入れ具合は判断できるのだから。
取り敢えず、約90パーセントの出力を、これ位の息の荒さであると基準にして、それより酷くないなという時は、脚を休められているぞ、せいぜい貯金しとけってなもんだし、肩で息をするように全身が揺れてくる場合、それはオーバーワークの危険信号以外の何物でもなく、まだ出力を落としても登れるようであれば、速度を緩めて息を整えることを優先すべきであり、いや、ここが勝負の踏ん張りどころと来たのなら、早急にカタを付けて脚を休ませることばかり考える。
それと関連して、いわゆるダンシングはすべきでない。あれは下死点から上死点に戻っている間も、脚は突っ張っていて休むことができないから。如何にも、この瞬間、俺は登っているぜ、という気分になるので、つい腰を浮かせたくなるけれど、実際は過度な入力をして、無駄に浪費しているだけ。そして、自転車にとって効率の悪さは嫌われる。やるのなら、比較的斜度の緩くなる箇所で、凝り固まった筋肉をほぐし、関節に息抜きを与え、精神の気分転換を図る、これらを目的とすべき。実際に、自身が登った時でも、フルパワーのダンシングを強いられる場面はなかった。
と言うより、それ以前に、傾斜がありすぎて、重心が後ろに移動し、力一杯踏み込むと、前輪が浮き上がってしまう。だから、尻をサドルの先端に引っ掛け、体で覆い被さるようにしてハンドルを手で押さえつけ、もはや腋の下の筋肉は攣ってくるほど。そんな状態なので、厳しいところであればあるほど、車体を左右に傾けながら、できるだけ自重を乗せて踏み抜く、ダンシングならではの振り子走法は至難の業となる。
ようやく最後に
まったくもって、無尽蔵の脚力がなくとも、そこそこのパワーがありさえすれば、やり方次第で十分登れるのだから、山好きなロード乗りは挑戦してみたらどうだろう。まぁ人に自慢するというのはさておいて、少なくとも、己が肉体の使い方に関して新たな発見があること請け合いなのだ。
【終り】
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