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自転車紹介 序章②

ある時、六甲の山を登りに行って、延々と続く結構な勾配の坂道を呼吸も荒くペダルを回していたら、前に自転車のシルエットが見えるではないか。こういうのは仲間のような親しみと、ライバルみたいな対抗心の両方が首をもたげて、思わず知らず刺激を受けるものだが、すれ違いざま見てみたら、中学生くらいの三人組が自転車を降りてしまい、それでも押し歩きで山頂を目指している。それはママチャリか、それ風の軽快車だったか、いずれその類であった。えっ、この峠を登らんとするなら、いわゆる“ロードバイク”でなきゃ、いくらなんでも無理だろう、と思ったのだが、その心意気や良し!ってなもんで、明らかに馬鹿っぽいけれど、こういうのは将来有望であるのかな。

淀川から見上げた六甲。端から端まで走ることができるのである。


要は、何を言わんとするのか。別に彼らのことでなく、初心忘るべからずといったところ。自分自身の出発点に立ち返れば、漠とした純粋なる憧憬であるとか、単細胞に無茶を仕出かしたいとか、そういう衝動というのが確かにあったなと、後ろ髪を引かれるように思い出されてならない。だから今、いっぱしの口を利いていても、これまでの道のりを振り返ってみれば、幾つもの間抜けな失敗を積み重ねて、ここまでやって来たもんだ。それで特段問題ないのも、必ずしもロードバイクが唯一無二とかじゃなく、己の志向に合致したのが偶々そいつだったという話で、もしかしたら、目的地なぞありゃせず、どっかへと至るだろう、その過程にこそ意味があるのでは、言い換えれば、一見無駄としか思えない回り道もまた自分らしいことだと、心に留めて置かねばならぬと感じている。

山の稜線から下界を見下ろす。上の写真の撮影ポイントも写っている。

つらつらと思い返すに、近所のスポーツ車を扱っている自転車屋に出掛けてみたら、それは特殊と言えるロードバイクに限らず、もちろん商売上の必然として幅広いニーズに応え、もっと気軽に乗れるクロスバイクや、さらには自転車イコールとさえ言えるママチャリだって並んでおり、しかし決して資金力のあるチェーン店ではなく、あくまで個人の経営とあっては、所狭しとモノで溢れた店内は一見すれば混沌とした品揃えだけれど、いかにも老舗らしい、長年の選別に耐えた、どこか統一感に貫かれる、趣味の良さを感じさせるショップなのだった。
ほとんど考えなしで、10万円以上の買い物をすることに、不安を覚えなかったわけではないが、我ながら嫌になるのは、どうにも根が単純に出来ているのか、割り切った考えをするところがあり、乗らなきゃわからんだろう、という開き直りでもって、エイヤッと、天井から吊り下がっていた特価品の完成車に飛びついたものだ。
それで、どうだった、と聞かれれば、特に何の感銘も受けなかったかも、と言ったら言い過ぎになるだろうか。そりゃ勿論、ママチャリよりは、楽に、速く、走ってくれたが、う~む、どうにも、それ以上でもそれ以下でもないような… それは日常の足としては重宝されたが、そんなんじゃ、どこまで行けるのか秘めたる可能性を試せるわけもなかった。その一番の理由は、多くの人が誤解しているだろう、これ速いでしょ、というやつである。どこか勘違いしているようで、取りも直さず動力源は自らの脚であり、つまりスポーツ以外の何物でもなく、コツコツと地道な努力が必要である、という単純な事実なのだ。

ガチャガチャした乗り心地なんだけど、気楽に扱えるのは他に無い一番の利点。

まったくの話、チャリなんて蔑まれた呼称のものでありながら、いや、だからこそ、と逆に言うべきなのは、ここまでやれんのか!というのが面白くてならず、古の賢人の金言、虎穴に入らずんば虎子を得ずの理どおり、打てば打つほどに響いてくれる、スポーツならではの充実感を得ることができ、もはや自然の摂理として、水が高きから低きに流れるが如く、もっと掘り下げてみたい、となるのも無理からぬ話であろう。

効果のほどは、いざ知らず。しかし、戦闘的なエアロフォルムは格好良い。

普遍的であるべき原理原則の働きに例外は生じるものではないが、敢えて自転車ならではの特徴を挙げるとすれば、それは機材マニア的な側面が否応無く付随してくるところだろうか。

クロモリとディープリムの組み合わせは平地番長である。だけどここは、六甲山登りの入り口。

己の努力を棚上げにし、高い機材を揃えれば速く走れると期待するのも、己の心の弱さゆえであるが、人間は心理的な生き物であるが故、そこは大目に見てもらうとして、再三触れるけれど、当前ながら自分自身が推進力となるわけで、個人的に最高の走りを披露できている時は、大袈裟に言って相棒との一体感が半端なく、それだけ機体が皮膚感覚で操られ、ひどく官能的な乗り物なのであり、もしや、跨るフレームの素材が異なったら、体の懐に収まるサイズが違ったら、ぶん廻すホイールの重量が軽くなったら、空気を逃がすリムハイトの高さが変わったら、コンポーネントの造り込みの精度が上がったら、等々の興味が尽きない、とつながっていく。

淡路島のサンセットラインにて。もう店仕舞いしたいけど、まだ大阪まで走って帰らないと。

ここで、冒頭の件に戻るが、普段使いの気兼ねなく扱える比較的安価なアルミフレームと、走りの性能を追求するならばカーボンフレームの一択と、自転車乗りであるからには一度は鉄に乗らなきゃ、の言葉が気になってしょうがないクロモリフレームと、そうして気付いたら三台のロードバイクが揃ってましたとさ。

【終り】

カテゴリー: 自転車

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