さすが己の力に頼る自転車、微妙な差異が大きくものを言い、登りと平坦の地形的な種類で漕ぎ方が変われば乗車姿勢も違ってくる。ところが、ダウンヒルでは一転してシビアな状況に置かれ、もはやポジション云々じゃなく、スピードがもたらす快感と恐怖の間で行ったり来たり。以上のように、最適なポジションの一点を決めたいのはやまやまだけど、生憎そんなもの決められるとは、とても思えん。
あちらを立てればこちらが立たず、すべての希望を叶えるのは無理な話であり、八方美人よろしく折衷案で我慢するのか、目的に合わせた専用機を用意するのか。でも待てよ、フレームが既に、空気抵抗が最大の敵であるとしたエアロタイプや、山では重力が問題となり軽量化に振ったモデルや、乗り手の表面積が一番大きいとして体を小さく丸めるTTバイク等、それぞれに特化したものをメーカーは用意しているよな。それにホイールもまたしかりで、切り裂いた風を流麗に逃がすべくリムハイトの高低は、コースレイアウトの如何により、回転力を優先するのか、重量がものを言うのか、風が強いと前輪が振られるとか、それぞれの要素を鑑みて使い分けられる。斯様に機材の展開を見てみれば、我がエンジンの肝となるポジショニングだって違ってくるのは、理に適った当然の帰結と言えよう。
具体的に見れば、僕のCAAD10はサイズ48だからトップチューブが515mmとなり、これはサイズ表によると適正身長の上限にあたる。確かに、こじんまり懐に収まっているな、という感覚があって、ステムを少し長めの11,5cmにして丁度いいか。ブラケットを握るには少し窮屈だけれど、起きた上体が風をまともに受けてもなんのその、リラックスしたポジションという割り切りも必要だろう。逆にスピードを上げようとすれば、受ける風圧は邪魔くさく、意識せずとも自然と体を伏せるようになるが、下ハンは無理なく握れる寸法なのだ。
さて、CAAD10の主たる使い道は日常の足となり、東京ほどではなかろうが大阪もそれなりの交通事情である。
それにしても、我々からすると日本に旅行なんて何が面白いのか首をひねるのだが、実際これまで観光立国であったためしはないと思われ、それでも自分の所とは一寸変わったところが興味を引いたりするのか、やたらめったらガイジンが押し寄せている今日この頃だけれど、これも目に見える経済波及効果と言えるかもしらん、あっちでもこっちでも古い建物が取り壊され新しく建てられるのは決まってホテルだし、やれやれツーリストは朝早くから日本人労働者みたいに勤勉であるし、繁華街に彷徨う夜の住人は朝日が昇る頃にはすっかり千鳥足であるし、大型バスは軒を連ねて一車線ふさいで周囲を威圧してるし、タクシーは客を探しながら先の読めないフラフラした運転だし、ゴミ回収車は巨体を揺らせて恐怖心の麻痺した走りをしてるし、まぁ朝っぱらの堺筋は日本橋から長堀橋あたりのミナミの繁華街を走るならば、僕の自転車もその一因となっているカオス以外の何物でもない。
そこでは、車や自転車や歩行者など入れ替わり立ち替わり、路上駐車や信号機や路面の凸凹など厳として在り、これらすべてが織り成すところの狂想曲において、ひたすら加減速を繰り返し、あまつさえストップアンドゴーを強いられ、一寸先は闇と言うけれどその先を読む能力が必要である。
ちょうど宣伝文句で謳われる軽量フレームに、一つ下のサイズを選んで取り回しは楽になり、アルミならではと言える反応の鋭さも相俟って、実に小気味良く走ってくれるわけだが、さらにホイールは性能と値段の折り合いが絶妙なカンパのゾンダを履かせ、耐久性も定評があるようだし普段使いにいいだろう。
普通に考えると、CAAD10+ZONDAを街乗り専用とはオーバースペックな気がしなくもないけど、日常そのものが混沌とした状況であるならば、ある意味、街乗りでこそ持てる潜在能力を発揮してくれる、最高の相棒なんだ。
【終わり】
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